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今日から12月。ある保育園の厨房入口に来年のカレンダーが貼られていました。
「ちゅうぼうさん いつもおいしいごはん ありがとう」
園児もなかなかやるじゃないですか。調理師の皆さんはもちろんでしょうが、八百屋のおじさんまで嬉しくなります。
そこで、こんな話を思い出しました。
15年ほど前、IT会社の雇われ社長だった私は、当時手がけていた医療システムの視察で、シカゴに出張する機会がありました。
そこで訪問した企業の一つが、医療サービスのカーディナルヘルス社でした。
薬品や医療用品の流通分野で急成長中の会社で、経営戦略スローガンは「ピル(薬)を追え」。
通常、薬品の卸し会社が医療機関等に納品する場合、搬入口で検品を受け、薬品の種類と数量が注文通りであれば、それで仕事は終わりです。
一方、カーディナルヘルス社の「ピルを追え」は、医療機関に納品した薬品が、患者の口に入るまでのプロセスを追うことを意味します。
カーディナルヘルス社のサービス内容は多岐にわたりますが、二つの例を紹介します。
(1)薬品
カーディナルヘルス社の倉庫から薬品が搬出される時、薬品は顧客の医療機関が患者に投薬する単位で小さく梱包されていて、それを医療機関に設置した薬品収納機(ATM)にセットすることで納品が完了します。
看護師が患者のIDを入力するとATMが作動し、引き出し状の薬品棚が出て来て、当該患者に投薬すべき薬品が入っている区画のフタが開きます。さらに、看護師はハンディターミナルを使って、薬品と患者のベッドのバーコードを各々スキャンすることで、投薬ミスを防ぎます。
このシステムを導入したことで、薬剤師は患者ごとに薬品を揃える仕事から解放され、薬剤師が本来為すべき仕事に集中できるようになりました。
(2)医療用品
カーディナルヘルス社は顧客の医療機関が予定している手術とその内容を把握していて、その手術に必要な医療用品(メスからガーゼに至るまで)を、手術で使う順に梱包して納品します。看護師は手術が始まる前に、それを手術台の脇に並べるだけで良いのです。
このサービスを受けている医療機関の医師は私に「手術中にまごつくことが無くなった。この安心感を経験すると、他社のサービスに切り替えることができなくなる」と言いました。
さて、このブログは従業員5万人のグローバル企業と、従業員6人の八百屋を横に並べて話を進めようとしています(笑)
グローバルヘルス社が患者の口に入るまでピルを追うのなら、某青果店は納品した食材が園児の口に入るまでを、サービスの範囲と心得るべきでしょう。
例えば、調理師が調理の途中で食材の不足に気づいたとします。調理師はパッと時計を見て、私に連絡を入れます。「キュウリが3キロ足りない」とか、「サラダ油が切れた」とかですね。
「納品した時に検品したやないですか。ウチは責任を果たしてますから、そっちで何とかして下さい」が一つの答え。
「なんて酷い業者なんだ」と思われるかもしれませんが、他の業者から某青果店に切り替えていただいた保育園で、最も耳にするのがこの苦情。だから、それが普通とまでは言いませんが、結構ある話のようです。
もちろん、納品時の検品で、お互いの責任範囲を明確にすることにも一理あります。注文する側も納品する側も、間違いが無いように緊張感を持って仕事をすればいいわけで、両者の仕事の質も上がるでしょう。
ところがねぇ。なかなかそう上手くはいきませんてば。
園児の口に入るまでが仕事と心得ておけば、個別の判断に迷いが無くなります。園児に食事を提供することが、調理師の仕事であり、私の仕事でもあります。
かくして、今日も私は、キュウリやサラダ油を抱えて、保育園の厨房に急行するのでした。
園児のカレンダーを喜びつつ、シカゴの夜景を思い出しつつ(笑)