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八月十五夜の茶屋(The Teahouse of the August Moon)

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    タイトルは「那覇の芸者」。

    写真家、木村伊兵衛氏(1901-1974)の作品です。

    20110305162858_0.jpg

    昭和10年(1935)に撮られたこの作品は、京都現代美術館で見ることができます。

    被写体となった女性は、上原栄子さん(1915-1990)です。


    沖縄では彼女の仕事を「芸者」ではなく、「尾類(ジュリ)」と呼びます。

    那覇市辻には、沖縄戦で全焼するまでの間、辻遊郭(ちーじ)がありました。

    最盛期には美妓三千人と呼ばれ、辻の遊郭が納める税金が、沖縄県の税収の5%を占めていたそうです。

    木村氏は昭和10年に約一ヶ月沖縄に滞在し、主としてポートレート作品を撮っています。

    木村氏は辻遊郭を訪れ、当時19才の上原さんを被写体に選んだのですね。


    お断りしておくと、辻の遊遊郭と本土の遊郭は、全く異質のものです。

    そのことが、今日のテーマではないので詳細は後日としますが、一言で言えば、辻の遊郭と尾類は、舞踊、音楽、料理などの琉球文化を継承する存在でした。

    「性」だけを商品とした遊郭とは異なるのだと、ご理解ください。


    さて、貧しさゆえに、4才で遊郭に売られてきた上原さんは、抱親(アンマー)から、礼儀作法はもとより、琉球舞踊、三線、沖縄民謡、琉球料理などの徹底した教育を受けます。

    持ち前の才能と努力で、写真に撮られた頃には、彼女の人気はピークに達していました。

    その後、23才で自らが抱親となり、遊郭「松乃下」の楼主となります。

    ところが、彼女が30才の時、沖縄戦で辻遊郭は跡形も無くなってしまいます。

    戦後の混乱の中、彼女の辻復興に賭ける熱意が結実し、彼女が37才の時「松乃下」は料亭として辻に復活します。1952年のことでした。


    「松乃下」復活までのストーリーは、ヴァン・スナイダーによりベストセラー小説となり、その後、その小説を原作としたミュージカル「The Teahouse of the August Moon」は、ブロードウェイのロングラン作品となりました。

    さらに、マーロン・ブランドの主演で映画化され、上原栄子役の京マチ子はゴールデングローブの主演女優賞にノミネートされたのです。


    次の写真は、現在の(と言うより今日の)「松乃下」です。

    20110305125935_0.jpg

    上原さんの死後、「松乃下」が閉店したことは知っていましたが、改装されて老人ホームになっていました。


    「松乃下」は、戦後初の本格料亭として米軍や沖縄政財界に使われ繁盛しましたが、米軍が去り、やがて肝心のウチナーンチュの足も遠のいてしまいました。

    そして、頼りが観光客では、やはり経営は行き詰まりますよね。

    琉球舞踊や古典を演じても、相手に「島人の宝」や「涙そうそう」を求められるのでは、せつないものがあります。

    誰のための文化継承かと考えると、やはり客として、ウチナーンチュが責任を果たせていないと思います。


    記事が長くなり恐縮ですが、一枚の古い地図をご覧ください。

    20110305200857_0.jpg

    「旧辻遊廓之図」とある通り、戦前の辻遊廓街の地図です。

    地図の右上部分を拡大すると、波之上通りから中道を入ったところに、「松乃下」の文字が見えます。

    20110305235252_0.jpg


    一軒一軒の遊郭に、様々な物語があったのだなと思いながら、今日のお昼、この地図を片手に今の辻を一回りしてきました。

    辻は今、風俗の街になり果て、キョロキョロしながら歩くと、やり手ババァの餌食になりますので、注意が必要であります。

    コメント
    木村伊兵衛の有名なこの写真にじつにさまざまな歴史があり背景があり,ドラマがあったことに撃たれましたがが、じつはどのようなスナップにもそれぞれの背景があるのだということを改めて知りました。ありがとうございます。
    • 多田亞生
    • 2013/06/27 5:06 AM
    コメントありがとうございました。

    おっしゃる通りだと思います。

    語られたドラマがあり、その何倍もの語られていないドラマがあるのですね。
    • coralway
    • 2013/06/27 1:35 PM
    記憶のかなたにとんじゃったけど、
    あれがほしい、これがほしいと女性陣に
    振り回される将校さん、おかしかったですね。
    進駐軍は進駐軍で苦労してんですね。
    古今東西、津々浦々、女性は強い。
    京都丸山公園の平野屋さんまで出てきて、
    なんで知ってるの!と感心。
    お寿司じゃなく「いもぼう」が名物なんだけどね。
    このころから占領地のマネージメントのために、て、
    タカビーな国だ、やっぱり。
    • ikoka
    • 2013/06/29 4:52 PM
    マーロン・ブランドの恋人が清川虹子さんでしたっけ。いつか、この話、しましたね。
    • coralway
    • 2013/06/29 6:59 PM
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